春嵐に翻弄されて… 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。


 
 



     



さあこれから新しい1年が始まるぞ、
特に本日こちらへ集った初々しいお嬢様がたにおかれましては
夢と希望の新しい学園生活が…という、春の初めの入学式という催しの最中。
在校生として式次第の流れを支える裏方役にあったとあるお嬢様たちが、
ちょっとした事態への参与をさりげなくも“打診”され。
その手始めのテストのようなもの、
その好奇心を満たしたければという順番なのだろう、
ちょっと気になる出会いからするすると謎を解いての真相までを
そりゃあ鮮やかに紐解いて。
不思議な肩書を持つ青年を学園内へ引き入れる手助けをし、
本来、世間からも隠蔽されしとある企みとの攻防戦へ、
助力することを乞われたのだが、

 『何を構えているのか知らぬが、貴女方は此処から出ないように。』
 『え〜〜?』

日頃繰り広げておいでの大暴r…、もとえ、
正義の鉄槌くらわすための活劇行為へ走らんとしかかったのを、
そうはいかないとばかり、鼻先でぴしゃりと封印されてしまった辺りはお流石といえ。
一般人のしかも女子高生に、
同じような年頃のお嬢さんへの略取誘拐を匂わせるような
怪しくも危険な輩への接近を認めるわけにはいかぬのは、本来ならば当たり前の話であって。
そうと言い切った彼だとて未成年の高校生のくせにというのは、この場合は聞かれない。
先程提示して見せた証明書は単なる身分証だとしても、
若い身でありながら、途轍もない地位と辣腕を持つのだろう“実状”を証明するかの如く、
平八が最も警戒を敷き、あれこれと秘密兵器の防犯体制を散りばめていよう当学園の敷地内へ、
難なく侵入し、彼女らが詰めていた教室まで運べた別の青年が現れ、
彼のことを主人としてだろう粛々と跪いて見せたことがお嬢さん方を黙らせる。
彼らがこちらを足場にさせてもらうとしたのは、
三木家の令嬢という、自分に似ている存在の姿を借りようというもので、

 『此処へ一旦潜入し、そこから出てきた存在だという攪乱が必要なのだ。』

果たしてそれは、標的である神木代議士の娘の護衛の青年か、
それともこちらに通う三木さんチの令嬢なのか。
後者だとしたら追い回しても無駄な行動、
それどころか日本を代表する財閥の令嬢への不法行為として、
いち早く取り押さえられる藪蛇を招きかねない極めて間抜けな事態であり。
それに気づかず愚かにも引っ掛かってくれたなら、
何ならそのままの罪状で逮捕し断罪してもいいくらい。
この状況が把握できる冴えた相手であったらあったで、
どちらなのだろという困惑を招くことが出来ようから時間稼ぎには有効だし、
最善策を執って追っ手が二分されても重畳…という、
小癪にも練られた策らしく。

 今後も派生しよう似たようなことをしかねぬ犯罪組織への見せしめもかね、
 悪あがきのような時間稼ぎで相手を引っ張り回し、
 公安も動ける状況となった途端に反転して躍りかかり、
 実行犯からそれを操作していた黒幕までも、一網打尽とする段取り…だそうで。

なので、
紅ばらさんのものであるトレーニングウェアを、
少しも違和感ないままでまとったまんまの久蔵くんは、
そのまま神木代議士の令嬢と共に迎えとして呼んだ車で目的地へ向かうという。
表向きは、そう、
先程お嬢様がたが迷子の令嬢だとシスターへ紹介した段取りへ口裏合わせをしたかのように、
そちらの学校から手配された迎えだとお膳立てした車が魔法のようにやって来ており。
その到着を告げに来た従者の彼だったようで。
何でまた、そんな詳細まで読めているのかと怪訝そうな顔をしたこちらに気付いてか、

「今時は盗聴器というものがある。」
「う…。」

神木さんちの令嬢がブレザーの裾をちょっとだけめくれば、
そこには小さな、されど予備のそれにしては配置がおかしい黒ボタンが1つ。
小さいながらも遠くまで電波を送信できる高性能なそれであるらしく、
スマホの代わりに装備させられていたようで、
それでこちらの動向を窺っていたらしい周到ぶりよ。
すっかりと相手の段取りを衆知させられ、
ではとブレザー姿のお嬢さんを視線だけで従えたジャージ姿の青年が、
先程の冗談半分なようなやり取りも律儀に拾ったか、
いやいやそこは…久蔵くんがいくらそっくりでも
声で破綻しかねぬ現状は否めないとし話に乗ったのだろう、
七郎次へも手を伸べると“ついて来よ”と促す所作を見せる。
特に威圧的でも傲慢でもなく、さらりとした仕草だったので、
一瞬戸惑いつつも、平八やお友達の方の久蔵へ目配せを送ってから、
じゃあとそのまま足を運ぶことにした白百合さんで。
教室から出てゆくと表への昇降口のある方へ迷いなく去ってゆく彼らであり。
それを声もなく見送っていたこちらだったが、

「よろしいか?
 貴女らはくれぐれもこの学園内から動かぬように。」

居残った青年が、先程の久蔵くんが言い置いた文言を念を押すように繰り返すと、
あとの二人がちらりんと目配せし合う。
明るい髪色の前髪を透かし、互いをちらっと横目で流し見てのそれは
見ようによっては何とも愛らしい相槌で。
大変なことになっちゃったねなんて意味合いの意思の疎通でも図っているものかと、
受け取ったイブキくんらしかったものの、
彼女らをようよう知る人には……もしかせずとも やや不吉なそれであり。

 そもそも、自分たちの行動を封じようなんて言い分、
 素直に聞けるお嬢さんたちでもなくて。

「とりあえず、表に集まってる鬱陶しいのを排除しましょう」
「お嬢さんたち?」

平八の言に引き続き、
まずはと紅ばらさんが七郎次が置いてった帆布製のバッグを手に教室の廊下側へと足を運び、
教壇側の隅に立つと、いきなり自分が着ているセーラー服のウエスト部へ手を掛ける。
え?と、直接の見張りとして配置されたらしきイブキ青年が視線で追った末のその視野の中、
何のためらいもないままにがばっと、上っ張りというものか上半身部分の裾を持ち上げ
威勢よく脱ぎ始めたものだから、

「いやあの、ちょ、ちょっと待ってくださいな。」

これが潜入先や何かでの所謂“色仕掛け”だったなら そこそこの耐性もある。
半裸になられようとそのまま擦り寄られようと、
何ほどのものかと泰然としていられたろうが、
相手はごく普通の、しかも護衛すべきという把握をしているお嬢様たち。
そんな彼女らを様々な意味から守らにゃならぬ身の自分が、
辱めてはならぬという道理というか順番が頭のうちで立ち上がり、ちょっとした混乱を招く。
そこは一応のたしなみか、こちらへ背中を向けている紅ばらさんだったけれど、
つやつやした薄物のランジェリーがあらわになったのへ、
うわぁあっと慌てふためく辺りは年齢相応に純情な青年であるのかもで。

「今更あなたを振り切ってなどという強引なことはしませんよ。」

視線を外しちゃいけないがされどこのまま見ているのもどうかという、
究極の選択を迫られている若いのへ、ひなげしさんがくすすと笑う。
こちらの青年も結構な練達には違いなかろうから、力技では振り切れまいし、
何より、強引な反発なぞしようものなら、
そんな卑劣は繰り出さぬだろうが…あくまでも緊急避難として
もっと厳重な“軟禁”状態へ持って行かれるやもしれぬ。

 “こちらとしてはシチさんを人質に出しているんですけれどもね。”

言われた通り 大人しくしていましょうと、
一応はそのつもりだが、ただ、
それでも出来ることはあると踏んで、それへ手をつけようというのであり。

「ほ、本当ですね。」

確かめるように訊いて、回れ右をし、紅ばらさんから視線を外した純情少年。
こういう場合の対処を先輩から聞いておくべきか、
いやいやこのお嬢さんがたがあまりに突飛なだけで、
今後の何処ででも まず同じような事態に遭遇しはしなかろと断じるか。

 “何とまあ手ごわいお嬢さんたちだろか。”

突拍子もないことでなら、普通一般人にそうそう負けるはずがないとの
微妙な自負もあった自分だのにね。
成程これだから、木曽の次代様も
名と姿を借りるというだけにせよアテにされたのだなと、
妙な納得をしておれば、

「着替え終わりましたよ。」

そんなお声を掛けられて。
はあやれやれと安堵しつつも振り向けば、
ようよう使い込まれたクラシカルな黒板前、
すんなりした背筋をやや弓なりに反らせるほどの良い姿勢で立つお人に
あっと声が出かかりの、思わずその場で跪きかかったほどに、
威容まで自分の主人にさも似たりな存在が仁王立ちしてなさる。
くせっけの金髪がけぶるように目許にふんわりとかかり、
サイドやバックは襟足を覆うほどにやや長めなのが、
いかにも少年ぽい やや薄い肩や若木のような肢体に映え。
ぱっと見の印象は痩躯な処が際立っているのに、
何故だろうかひ弱なのだろうという想定は浮かばない。
鋭角に整った顔立ちへ、その若さでよくもまあと思えるほどの威容を載せているからで。
自然体で立っているだけなのに、その身からあふれる気色はただただ泰然として豪なそれ。
自身が今着ているのと同じブレザータイプの濃青の制服をまとったその人は、
だがだが、順調に作戦実行中である以上、島田久蔵さんであろうはずはなく。

「ま、まさか。」
「ええ、まさかの三木久蔵さんです。」

先程ちらと視野に入ったランジェリーの初々しい艶っぽさなぞどこへやら、
ここまでの工程を知らなけりゃあ、
申し訳ないながら主人の方の久蔵だと言われても判らなかったかもしれぬと、
その凛々しさへそれは驚愕しておいでのイブキくんで。
そんな彼の呆けた様子に苦笑をこぼしつつ、

「どっかキツイとか緩いとかありますか?」

これで補正しますよと安全ピンを用意していたひなげしさんだったが、

「〜〜〜
「あ、丁度なのが腹立たしいのですね。」

シチさんがいなくともこのくらいは読めますよと、
むうとむくれるお友達の不興を気の毒にと思いつつも楽しそうに笑ってから。
改めて、見張り役の青年へと向き直る。

「周辺から様子を窺ってる輩には、
 この姿の人物が居残っているとした方が都合がいいのでは?」

「そ、それは確かにそうですが。」

今の今、たった今、正門から出てった車に乗っている一行こそ、
鼻を利かせて学園周辺に集まっておいでの怪しき連中の襲撃の目標。

「といいますか、学園周辺から様子を窺ってる輩がって、何でそうと言い切れるのですか?」

そんなに間近にまで迫っているとは、さすがに自分の主人も言ってはいない。
浅慮なクチなら車を追うだろが、深慮を払う面倒なクチは半数が居残るかもしれぬという算段なので、
依然として動向を覗かれ続けるのは必至。
なので、徒に怖がらせてはいかんと思われた…のだろうと
まずは一般的に普通に常識的に、そうと解釈しかかったものの、

 “まさか、そんな事実を告げたら煽ることになると思ったとか?”

この展開っぷりを目の当たりにしては、そうという解釈も掻き消せず。
そうこうと戸惑いを抱えているうちにも、

「さて。表通り沿いの生垣前まで出ましょうかね。」

イブキくんが先程ひょいと入ってきた窓をからりと開き、
桟に足を掛けてやはりひょいと、それは軽やかに外へ出てしまわれるお嬢様がた二人。

 「はい?」

ちょちょちょっちょっと待ってくださいなと、
まずは紅ばらさんがひらりと桟から外へ飛び降り、
それへ続いたひなげしさんへ、
そりゃあ優雅に“お手をどうぞ”する麗しい光景に見惚れてから。
いやいやそうじゃなくってと、自身も慌てて後を追い、
速足になって二人を追い抜くと、サッと両腕を開いて通せんぼの構え。

「大人しくしていてくださいって。」
「敷地の外へまでは出ませんてば。」

私たちとて無意味な行動で大怪我したくはありませんしと、
ふふんと肩をすくめるところが、
だから普通の女子高生の反応ではないというにとイブキくんを慌てさせる。

「で、でも、その姿でうろついては、
 学園関係者の方から何で男の子がいるのと見咎められるんじゃあ…。」

そちらの方向から攻めてみたものの、

「まあ、何でまたこんな日に
 コスプレなんて悪ふざけをしてますかくらいの叱責は受けるでしょうね。」
「はい?」

だって、ウチのシスターや職員の方々は島田久蔵さんを知りません。
なので、何故どこかの学校の、しかも男子用の制服でいる“彼女”なのかと、
見たままの解釈しかされないでしょうし、
男装して何か余興でも構えておいでかくらいにしか思われやしませんよと、
お見事なまでの理論武装を呈されて。

「あーうーっと…。」

姿は見えねど、実は多数のお仲間が潜んでおいで。
やはりやはり彼女らに何か火の粉が降りかからぬよう、
何か起きれば身を挺して守るためにと配置されている、
ほぼほぼイブキくんには目上の方々ばっかりで。
そんな方々からの“何をうろうろさせているのだ”という非難の視線を感じつつ、
とんだ護衛が、今始まったばかりでございます。




 to be continued. (17.04.13.〜)





BACK/NEXT


 *不思議奇妙な一族の説明をざっとでしか浚っておりませんが、
  詳細は別のシリーズにてくどいほど触れております。
  それとあんまり口外して良いことじゃないので、
  次男坊も適当な省略をしていたりします。
  信じたくなきゃそれでいいよ、此処を足場にさせてもらうよと、
  結構見下しな態度ですが、
  仲よく共闘できることでなし、
  むしろ嫌われて避けられた方がお互いのためだと、
  そういう心がけを叩きこまれている彼らでもありますので。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る